社会福祉法人神東会

Interview

社会福祉法人神東会

地域や行政との連携で活性化した外国人雇用

急速に高齢化が進む飛騨市神岡町で、地域との絆を大切にしながら、特別養護老人ホームやデイサービスなどの介護サービス事業を展開している社会福祉法人 神東会 たんぽぽ苑。ベトナム、インドネシア、ネパールといった様々な国籍の介護職員が活躍しています。中山間地で外国人介護職の活躍を実現させている秘訣について、施設長兼事務局長の清水 敏幸様にお話を伺いました。

行政との連携で岐阜県内の介護専門学校から留学生を採用

飛騨市では、「地域若手医療・介護・福祉人材育成支援事業」で揖斐郡池田町にあるサンビレッジ国際医療福祉専門学校の留学生を支援しています。サンビレッジ国際医療福祉専門学校に在学中の住居費を飛騨市で補助をしており、将来飛騨市で介護士として働いてもらう取り組みです。補助を受けた留学生は、毎年数名~1名程度当法人に入職しています。養成校を卒業した学生は、在留資格「介護」で採用できます。介護福祉士国家試験に合格した学生はもとより、介護福祉士国家試験に合格していない学生も国が定める特例措置で在留資格「介護」として雇用しており、介護福祉士の取得を目指しています。いずれもすでに介護の知識や日本語能力を身に着けた留学生ですので、当苑で即戦力として活躍してくれています。現在では在籍する外国人職員14名のうち12名が元留学生の職員です。

施設長兼事務局長 清水 敏幸 さん

外国人受け入れ当初はEPAに基づく外国人介護福祉士候補者を採用

専門学校からの採用に至る前、当苑では2019年にEPAと技能実習生の採用を始めたのが最初の外国人活用です。EPA(Economic Partnership Agreement)とは、特定の国同士が、貿易や投資、人の移動などを促進するため結ぶ経済連携協定のことです。人手不足に悩んでいた当苑では、平成29年(2017)に、初めてEPAに基づく介護福祉士候補者を海外から求人してみたのですが、国内での求人倍率は相当高いらしく、応募者は一人もいませんでした。翌年にはインドネシア人1名が応募してくれましたが、健康診断不適合にてマッチングには至りませんでした。そして、3年目の令和元年(2019)、ようやくインドネシア人2名とマッチングすることができました。しかし、外国人を介護職として採用し、彼らに活躍していただくまでの道のりには、多くの苦労がありました。

外国人から選ばれる地域になるために

日本人と同様に、地方よりも都市圏で働くことに魅力を感じる外国人は多くいますので、中山間地にある当苑を選んでもらうために色々な工夫をしました。私どもは、少しでも多くの外国人に「神岡町で働きたい」と思ってもらえるよう、当苑の魅力だけでなく、地域の魅力も積極的に伝えるよう心掛けました。私どもが考える神岡町の魅力は、国内屈指の標高三千メートル級の山々に囲まれ、とても自然が豊かなこと。街がコンパクトで、スーパーや銀行、病院、役場などが徒歩圏内にありとても便利。都市圏と比べると物価が安く、生活しやすいこと。そして行政の支援が手厚く、安心して暮らせることなどが挙げられます。採用した外国人から、「神岡町に魅力を感じて、たんぽぽ苑で働きたいと思いました。」という話を聞いたときには、とても嬉しかったことを覚えています。
地方は採用に不利と思われるかもしれませんが、当苑では、むしろ中山間地であることを逆手にとって、メリットとして外国人にアピールしています。

利用者や日本人職員の理解を得るために

外国人を雇うに当たり、正直なところ当初は、当苑の利用者や日本人職員が彼らをちゃんと受け入れ、良好な関係を築けるのかとても不安でした。そこで当初は、彼らが着任するよりも前から、彼らを紹介するためのチラシを作成したり、施設の広報誌「たんぽぽ苑通信」に紹介記事を掲載して、「この人たちが海外から働きに来てくれます。楽しみですね。」と、利用者の皆さんにアピールしました。さらに、日本人職員ひとり一人に対しても、「海外から遠い日本へたった一人で働きに来ることはとても大変です。彼らはきっと不安な気持ちで一杯です。皆で歓迎しましょう。」と繰り返し伝えました。
ところが、当初の不安を吹き飛ばすかのように、実際に彼らを迎え入れたら、我々は彼らの素晴らしさに気付かされていったのです。

現在は、こうした活動の結果、施設や地域を通して外国人職員への抵抗感がなくなってきたこともあり、こういった紹介がなくても温かく受入れていく環境が整っています。

業務中の様子

介護職を目指す優しき外国人たち

当苑で働く外国人の母国では、日本にも増してお年寄りを大切にする文化があります。母国では、日本ほど高齢化が進んでいません。介護サービス事業者が存在しない国さえあります。したがって、日本のような超高齢のお年寄りと接したことがない職員も少なくありませんでした。
そのため、外国人の職員には、介護サービスの仕事のことを、基本から丁寧に説明して、現場で育てていく必要がありました。そうした状況のなかであっても、信念を持って介護職を目指す彼らは、強い奉仕の精神や心の優しさを持ち合わせており、誰よりも成長が早いと感じます。

勉強熱心な外国人たち

外国人が日本の介護現場で働く場合、入国時点で少なくとも日本語能力検定N4相当の日本語能力が求められます。N4といえば、簡単な日常会話くらいは問題なくできますが、プロの介護の現場では通用しないこともあります。そこで当苑では、介護の専門用語の習得や日常会話の上達を目的に、毎週日本語教室を開催してきました。その結果、多くの外国人職員が日本語能力検定N3に合格しました。なかには、1年半でN2に合格した技能実習生もいます。

介護専門学校の留学生の採用が中心となった現在は、十分な日本語能力を有するため日本語教室は開催していません。

家族へのサポートも実施

在籍資格「介護」で活躍する職員は、配偶者と一緒に住んだり、日本で子供を産む職員がいます。そういった家族に対しては、技能実習生や特定技能とは違い在留資格「介護」の職員は外部機関による支援委託をしていないため、在留資格の更新業務や生活面のサポートを当法人で自ら行っています。出産、育児に係る手続きなどのサポートや、配偶者のアルバイト先の相談などを受けています。

また、飛騨市主催の日本語教室も活用しています。幸い日本語の上手な配偶者がいる等で、受講対象者が少なく参加者は1名のみですが、今後増えてくることが予想されます。

「家族滞在」の在留資格は就労時間に制限があるため、生活面や経済面を考慮すると、制限のない在留資格への変更が必要となります。当法人では「特定技能」への資格変更などの助言をしていますが、仮に「永住者」の配偶者等となり就労制限がなくなった場合であっても、日本で働く上では一定の日本語能力が求められます。家族も神岡で活躍できるようにサポートをしていきたいです。

住まいの取得もサポート

ファミリーで暮らす職員に対しては住まいの取得もサポートしています。

現在寮が3つあり、一部ファミリー利用もできるのですが、独身向けが多いです。配偶者を呼ぶ際には、市営住宅の公募に応募したり、民間アパートの契約のサポートをしています。最近の神岡ではハイパーカミオカンデの特需でアパートが不足しています。

大手不動産会社の物件はまだまだ外国人NGも多いです。民間アパートの中から個別に外国人OKか確認したりする必要がありますので、私たちが間に入って交渉をしています。

飛騨市の「住むとこネット」もよく活用しています。

行政の厚い支援

飛騨市では、先の留学生の協定や日本語教室の補助事業に加え、様々な手厚い支援があります。例えば普通自動車免許の取得支援です。10万円を上限に、取得費用の半額の補助を受けることができます。自動車の運転ができれば高山や富山に気軽に買い物にも行けますし、神岡に住むデメリットが軽減されます。外国人の職員はコストコが好きみたいで富山によく買い物に行っているみたいです。また、海外での採用渡航費補助やUIターン就職の奨励金、医療福祉系の貸付など様々なサポートを受けることができます。

また、市長が当苑を視察され、2022年と2025年に、外国人職員と意見交換をしています。市長や担当部署の皆さんは、地元企業やそこで働く外国人職員のことをいつも気にかけてくれており、大変感謝しています。

飛騨市長と外国人職員との意見交換の様子

地域交流や地域の企業へアドバイスも

当苑では、神岡まつりや古川の起し太鼓を見に行ったり、参加したりしています。

その模様を外国人がインスタグラムや、Facebookにあげたりして海外に神岡の発信をしてくれていてうれしいです。神岡の夏祭りの時には、地域で多文化共生に取り組む方々が中心になり、インドネシア屋台を企画し、当苑のインドネシアの職員が販売しました。

また、最近では、近隣の法人から外国人活用に関する問い合わせに応じたりしています。具体的な悩みは、住宅や指導に関することです。実際に外国人職員が働いている現場を、人事担当者ではなく、受け入れる現場職員の方に見てもらうと安心して帰ってもらえます。のちに実際に受け入れたあと、活躍している話を聞けると嬉しい気持ちになりますね。

 

夏まつりでのインドネシア屋台

施設内でサプライズ結婚式

実は当苑のインドネシア人職員の間でカップルが誕生しました。そして、2024年に結婚して、本人たちは母国へ帰って結婚式を挙げることになりました。結婚式のための一時帰国をする前に、施設内でも祝福したいという声が集まり、なんとサプライズで、施設内で簡単な披露宴を実施しました。私たちのスタッフには幸い、ブライダルコーディネーター資格者や、着付けができる職員もいて、みんなで相談しながら、二人の衣装を用意しました。

当日は、「ちょっと施設に来て」と呼び出し、男性は紋付袴と女性は花嫁衣裳の着付けをして、入居者様と一緒にイベントを開催しました。本人たちも日本風の祝福に大変喜んでくれました。その時の写真を、岐阜県老人福祉施設協議会のフォトコンテストに応募したところグランプリに輝きました。日本人職員がここまで外国人職員のことを思って、心あたたまるイベントを開催できたことは、当初、受入れが不安だったことを思うと私自身とてもうれしい気持ちになりました。皆様の協力があってこうした環境づくりができていることが定着の一つにつながっていると思います。

(上)グランプリ受賞作品『あぁ~れ 綺麗やな~(涙)』(下)サプライズ結婚式の様子

これから外国人材を雇用したい企業へのアドバイス

当苑では、何よりも、地域の理解と行政の支援が後押しとなって、優秀な外国人の雇用を進めることができました。地域や行政との連携は大変重要です。
それから、日本語教育に加え、日常生活のこまめなサポートや、それに伴う一定の経費などの負担が生じますが、そうした負担を上回る十分なメリットがあると考えています。負担の部分だけを見るのでなく、彼らを活用して、効率的に成果を出せる仕組みづくりを考えることのほうが大切だと思います。
また、外国人雇用を検討される際は、是非、中長期の採用計画を策定されることをお勧めします。受け入れの検討から雇用に至るまでには、一般的に年単位の時間を要しますし、受け入れたあとに現場で活躍していただくための仕組みづくりも、時間をかけてじっくり検討されたほうが良いと思います。そして、めでたく外国人職員とご縁ができた暁には、ぜひ彼らを組織全体で大切にし、その国の文化を積極的に学び、互いに理解しあう関係を築きながら、彼らが気持ちよく安心して働ける環境づくりにご尽力いただけたらと考えています。

 

会社概要

会社名

社会福祉法人 神東会
特別養護老人ホーム たんぽぽ苑

企業URL

https://tanpopoen.or.jp/

所在地

岐阜県飛騨市神岡町東町690-1

事業内容

福祉サービス業

従業員数

147名

外国人材雇用人数

ネパール 7 名、インドネシア 6 名、ベトナム 1 名

※取材時点の情報となります。