株式会社 本陣平野屋
Interview
株式会社 本陣平野屋
"おもてなしの心"を育てるのに、国籍は関係ありません。

旅館の良さと本陣平野屋で働くイメージを若者に伝えたい
2015年頃は、旅館は「年配の女性が働く場所」というイメージを持つ方が多かったためでしょうか、若者の採用活動が上手くいかず、私どもの旅館には新入社員がほとんどいませんでした。どのような採用活動を行ったら、そのイメージを払拭できるかと考え、まずは自社の採用ホームページを見直すことにしました。そして、旅館の雰囲気、働いている社員の様子を紹介する写真や動画などを新たに組み入れ、働く場所や、働いている人の生の姿を視覚的に伝えることができるように工夫しました。これにより、徐々に「本陣平野屋は若者も多く働いている旅館」、「年齢の近い先輩から仕事を教えてもらえる旅館」と認知されるようになりました。さらに、動画や写真を用いたことで、若者だけでなく、外国人の方にも働くイメージが伝わりやすくなり、採用につながるようになりました。

若女将 有巣 紗織 さん
インバウンド活況を受け年間10名以上の外国人を採用
新型コロナウィルス感染症が拡大する前は、飛騨高山はインバウンドのお客様で溢れていました。そこで、2019年4月頃より、外国語を話せる社員を増やす目的で、外国人の雇用にも力を入れ始めました。日本中の数ある旅館の中から飛騨高山、そして本陣平野屋を見つけてくださったという「ご縁」を大切にしたいので、採用人数に制限は設けていません。
現在は、年間10人~15人の外国人社員の採用を続けています。
文化の違いを「教える」のではなく、一緒に学ぶ
日本では、言葉にしなくても相手の気持ちをくみ取り、行動する場面が多くあります。そうした文化を外国の方が理解するには、きっと苦労が伴うと思います。
また、日本では遠回しであいまいな表現を用いることがありますが、外国の方には、はっきり言わないと伝わらないということも少なくありません。私は、日本人と外国人の考え方や文化の違いをお互いが理解して学び、双方で受け入れることが大切であると考えています。そこで、外国人社員が仕事でつまずいたときは、ひとつずつ行動を確認しながら、よく話し合い、失敗を繰り返さない方法に自ら気付けるように指導しています。

部署を超えて育てる「シスター制度」
私どもの旅館ではシスター制度と呼んでいますが、新入社員一人ひとりに担当の指導社員を付けて、先輩が現場で後輩を育てる制度を取り入れています。これは、日本人も外国人の社員もみな同じ対応です。外国人社員だから特別な教育をするのではなく、日本人社員と同じ基準で育て、一人の社員として同じ期待を寄せることを大切にしています。私は、社員は組織全体で育てることが大事だと考えています。そのため、「他部署の新人だから私は知らない」という考えではなく、部署の垣根を越えて教え合い、新入社員の成長を支えています。今では、その考え方が社員の間に根付き、組織全体で人を育てる風土ができてきたと感じています。
シスター制度による教育の様子
中国からのインターンシップ生も活躍
当社では、様々な国籍と在留資格の外国人材がそれぞれの職場で活躍しています。留学生を経て「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で働く方、海外から直接入社し「特定技能」の在留資格で働く方、ほかの業種の技能実習生を経験したうえで「特定技能」試験に合格し入社した方、そしてインターンシップなど外国人社員の背景は多岐にわたります。
当旅館には中国圏からの観光客も多くいらっしゃいます。そのため、昨年から中国の大学と連携し、毎年2名のインターンシップ生を受け入れています。いま働いている方は2期生にあたります。「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で働く中国出身の社員が、指導役を担っています。インターンシップ生はN1を取得していますが、現在は裏方業務に就いています。今後は様々な経験を積み、接客を任せられるまで成長してもらいたいですね。昨年のインターンシップ生は帰国後も当館で働きたいと言ってくれましたが、母国の家族の反対があり、実現しませんでした。いずれインターンシップから正社員へという流れを作れたらうれしいですね。
旅館のおもてなしには高い接客能力が不可欠
当社は外国人社員を積極的に採用していますが、接客を任せられるまで成長するには時間がかかります。当館らしいおもてなしを実践するためには、高い日本語力と接客力が求められます。最低でもN2程度ないと旅館の接客はできません。先述の中国からのインターンシップ生もN1を取得していますが、すぐに接客ができるというわけではありません。
シスター制度による教育や裏方の業務を重ね、一人前に成長するまでには、早くても1年ほどかかります。海外から採用する人材はN3レベルが多いです。それでも日本語の上達がとても早く、1年半前に来日したミャンマー出身の社員は1年ほどの裏方業務を経て、現在はサービススタッフとして活躍しています。
外国人社員が、今では教える立場へ
当社に入社し長く活躍している外国人社員の中には、すでに管理職になっている方もいます。留学生から入社し、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で働くネパール出身の社員が、入社後約2年半で「お客様係課長補佐」という役職についています。すでに家族を高山に呼んで定着してくれています。現在4年目で後輩の指導はもちろんのこと、リーダー役として外国人社員の生活面の指導も担ってくれています。また、インドネシア出身の社員も入社3年目で特定技能2号を取得しました。役職はついていませんが、すでに管理職のような立場で教える側に回っています。当社は2026年12月には新しい旅館を開業予定であり、10名ほどの外国人社員が入社予定です。新入社員教育のためにも、彼らのような教える側に回る外国人社員をもっと育てていきたいです。
ファミリー寮や外国人専用シェアハウスも増設
外国人社員の中には、先に自分が日本で働いて、後から家族や婚約者などを呼び寄せる方がいます。そこで、以前は、単身者向けの社員寮しかありませんでしたが、新たにファミリー寮や、外国人専用のシェアハウスも作りました。シェアハウスといっても、キッチンやお風呂、トイレなどは共有ですが、部屋は個々に用意されているので、外国人社員からの評判がいいです。宗教の違いからくる食べ物の制限については、自炊することにより解消できているようです。2026年3月に70室を備えた社員寮が完成しました。新社員寮には、家族向けの部屋も用意しています。高山に働きに来る外国人社員は転居を伴うため、新入社員の確保だけでなく、家族で暮らしやすい住環境の整備も、定着に向けて大切なことだと考えています。

外国人の雇用を考えている企業へのアドバイス
外国人社員を受け入れるためには、職場の全員が彼らを歓迎し、受け入れられるように情報共有することが大切だと思います。外国人社員に、「名前を覚えてもらえた」「みんなから歓迎されている」と、自分が職場に受け入れられていることを実感してもらうことができれば、その後も安心して周りに相談しやすい雰囲気が生まれます。
また、日本人、外国人と区別することなく、良い事は良い事として褒め、悪い事は悪い事として注意することで、お互いの信頼関係を築いていくことも大事です。
私どもの旅館では、お客様だけでなく、社員一人ひとりにも“おもてなしの心”を大切にしています。国籍や文化の違いを越えて、お互いを尊重し、ともに成長できる環境づくりこそが、雇用の安定と質の高いおもてなしにつながると考えています。これからも本陣平野屋は、国籍を問わず、一人ひとりが安心して成長できる職場づくりを続け、日本のおもてなしの心を次の世代へ受け継いでいきます。
会社概要
| 会社名 | 株式会社本陣平野屋 |
|---|---|
| 企業URL | |
| 所在地 | 岐阜県高山市本町1-34 |
| 事業内容 | 宿泊業 |
| 従業員数 | 164名 |
| 外国人材雇用人数 | ネパール18名、ミャンマー12名、インドネシア6名、中国3名、タイ1名、パキスタン1名 |
※取材時点の情報となります。 |
国際観光都市、飛騨高山の中心にある本陣平野屋は、国内外から訪れる多くの観光客に「日本のおもてなしの心」を伝え続けている旅館です。現在、本陣平野屋では6か国・41名の外国人社員が活躍しています。2019年から外国人材の採用・育成に積極的に取り組み、今では外国人社員が管理職や指導役として活躍するまでになりました。その内容について、若女将の有巣 紗織 様、取締役経理部長の畑雅喜様にお話を伺いました。